体のリズムとホメオスタシス

体のリズムとホメオスタシス 健康を考える

 私たちは、常に外的・内的にさまざまな刺激を受けています。例えば、暑い、寒いなどの気温の変化や、悲しい、嬉しいなどの感情の変化などが挙げられます。しかし、私たちには、それらの変化に対して心と体を安定した状態に保とうとする仕組みが備わっているのです。
この仕組みを「ホメオスタシス」と呼びます。日本語では、「生体恒常性」といい、簡単に言うと「いつも同じような状態を保つ仕組み」のことです。私たちの心と体は変化と安定の間をゆらいでいますが、それがある一定の範囲に保たれることで、健康が維持されているといえるでしょう。
 ホメオスタシスの仕組みや働き、体のリズムとの関係についてみていきましょう。

ホメオスタシスの三角形

 ホメオスタシスの重要なキーワードとなるのが「自律神経系」「内分泌系(ホルモン)」「免疫系」です。これらは「ホメオスタシスの三角形」とも呼ばれ、お互いに影響し合って、心と体を安定させていまます。

ホメオスタシスの三角形

自立神経は体内時計のネットワーク

 自立神経とは、自分の意志とは関係なく、無意識のうちに働いている神経のことを言います。
 例えば、心臓の動きを止めようと思っても、自分の意志で止めることはできません。このように、心臓の動きや血圧、食べ物の消化、体温の調節、ホルモンの分泌など、生命を維持する上で欠かせない働きを担っているのが自立神経です。そして、この自立神経が親時計である脳の視交叉上核の情報を、全身の子時計に伝えるネットワークの働きをしています。

自立神経は生命活動をになっています

 自立神経には、交感神経と副交感神経があります。この2つは相反する働きをしており、車のアクセルとブレーキのような関係です。
 交感神経は体を活動モードにする神経で、アクセルのような働きをします。一方の副交感神経は、体を休息モードにする神経で、ブレーキのような働きをします。交感神経と副交感神経は、お互いのバランスが取れて初めて体が安定します。また、これらのバランスが崩れると、体に支障をきたしてしまいます。

交感神経と副交感神経のバランスについて
自立神経の主な働き
交感神経と副交感神経がバランスよく働くことが重要

 交感神経が働くと、基本的に臓器は活発に働きます。血管は収縮して血圧を上げ、心臓は心拍数が増えます。同時に、気管支が広がり、呼吸の回数も増えます。そして、肝臓でブドウ糖がたくさん作られ、血液中に送り出されます。血液中の栄養素が増えると、体はエネルギーを作りやすい環境になるので、脳は集中力が高まり、筋肉ではその機能が十分に引き出されます。
 このように、一般的には交感神経が働くと体は活動的になるのですが、1か所だけ逆に活動が抑制される場所があります。それは胃腸で、消化管の働きだけは抑制されます。つまり、胃腸の働きが活発になるのは、副交感神経が働いている時なのです。食事をすると気持ちが和らいだり、食後に眠たくなったりするのはこのためです。また、「親が死んでも食休み」ということわざがありますが、これは食後に体を動かしてしまうと、交感神経が働いてしまうため、消化管の動きが抑制され、消化が悪くなってしまうことをいっています。

自立神経は役割分担制

 活動的になる日中は交感神経が優位、夜にかけて徐々に副交感神経が優位になるのが健康な状態です。
 では、1日の生活の中で、2つの神経がどのように働いているかみてみましょう。

自立神経の役割分担

 私たちの体に備わっている「昼間は働いて夜は休んで眠る」という生活のリズムは、自律神経のリズムでもあります。このリズムに合わせて生活をすることが、体のリズムを整えるためにも大切なのです。

内分泌器官とホルモンについて

ホルモンの作られる場所

 ホルモンはいろいろな場所でつくられます。内分泌器官(脳の松果体や下垂体、甲状腺、副腎、すい臓、女性では卵巣、男性では精巣など)で作られ、血液に乗って全身に運ばれます。
 ホルモンは、体のさまざまな働きを調整する為に体の組織や器官に対して「ちゃんと働くように!」と指示をしています。つまり、体の働きが常に一定になるようにコントロールしてくれているのです。

ホルモンの種類について

 現在、ホルモンは100種類以上見つかっています。例えば、女性ホルモンは女性らしい容姿にしたり、妊娠や出産など、女性としての機能を充実させたりする働きを主に担っています。また、食後に血糖値が上昇すると、すい臓からインスリンというホルモンが分泌され、エネルギーを生み出す働きをします。さらに、スポーツなどで大量の汗をかいたり、脱水状態になったりすると、尿量が少なくなり、水分が失われないように働く抗利尿ホルモンの分泌量が増えます。このように、ホルモンはそれぞれに作用する部位や働きが異なります。

ホルモンはほんの少しで大丈夫

 ホルモンはほんの少しの量で効果を発揮します。例えば、女性ホルモンは一生のうちで作られる量はほんのわずかで、ティースプーン1杯程度と言われています。これが一生分の女性ホルモンの量になります。
 また、体の中のホルモン量が少なすぎたり多すぎたりしても、さまざまな病気を引き起こす原因になります。例えば、インスリンというホルモンの量が足りないと糖尿病になり、甲状腺ホルモンが多すぎるとバセドウ病になってしまいます。
 このように、ホルモンは必要な時期に必要な量が作られることによって、体のバランスを保っているのです。

ホルモンは一生のうちで作られる量はほんのわずか

免疫について

免疫は体の防衛軍

 免疫とは、「疫(病気)を免ぜられる」と字で表されているように、私たちの体を病気から守る仕組みの事です。
 目には見えませんが、空気中にはたくさんの病気を引き起こすウイルス、最近、カビなどがただよっています。実は、こうした病原体は常に体の中に侵入してくるのです。それにもかかわらず、私たちは簡単に病気にかかりません。それは、体を病気から守る免疫が機能しているからなのです。
 また、一度「はしか」や「おたふくかぜ」などの感染症にかかったほとんどの人は、その感染症にかからなくなります。このように、一度病気にかかったら次はかかりにくくなることも、免疫の働きによるものです。

免疫は全身をくまなくパトロール

 免疫は「免疫細胞」によって維持されています。この免疫細胞とは、私たちの血液やリンパ液に含まれる白血球のことです。
 異物や病原菌は、体内のいたるところから侵入してしまいます。そのため、免疫細胞は血液やリンパ液の流れに乗って全身をくまなく循環し、病原菌や異物などが侵入した時には即座に駆けつけます。
 免疫細胞と病原菌の戦いの拠点は、主に喉や腸、皮膚など敵の侵入経路となる場所です。よく、風邪をひいて「喉が腫れる」「リンパ節が腫れる」と言いますが、リンパ管を通って運ばれた病原菌が、その合流地点のリンパ節で免疫細胞の一種であるリンパ球と敵対している時に起こる炎症です。また、腸も微生物や細菌、病原菌が体の中に侵入しやすい部分です。そのため、腸には全身の約60~70%にあたる免疫細胞があり、異物の排除に励んでいます。

風邪をひいている女性

免疫と全身の関係

免疫と全身の関係

免疫は弱くても強くても困りもの!

 本来、免疫は外部からの異物を排除するために重要な働きをしています。つまり、自分の細胞以外はすべて異物と認識し、攻撃するという働きを持っているのです。しかし、その働きに異常が起きると、敵ではないものまで攻撃してしまうようになります。例えば、ホコリやカビの多い環境に居続けると、免疫細胞が刺激され続けてしまうため、過剰反応が引き起こされます。その結果、微量のホコリに対しても、免疫細胞チームが総出で反応し、過剰に攻撃をします。これを、アレルギー反応といいます。たとえ、今アレルギーがないとしても、多くの化学物質やホコリ、カビなどと接する機会が多ければ、免疫の正常な働きが失われ、将来的にアレルギーを引き起こす可能性は十分にあるのです。また、免疫に何らかの異常があると、自分の体や組織を異物のように認識して、自分の体を攻撃することがあり、これを自己免疫疾患といいます。
 一方、免疫力が低下してしまうと、元気な時には免疫細胞に押さえつけられていたウイルスや細菌がここぞとばかりに体内で活発になります。すると、風邪をひきやすくなったり、がん細胞が増殖しやすくなったりしてしまいます。

喉が痛いビジネスウーマン

免疫と発熱の関係

 私たちは風邪をひくと熱が出ます。これは、体がウイルスに対抗するため、自ら体温を上げているのです。ウイルスや細菌などは熱に弱いという性質があるため、体温を上昇させるのはそれらに対する防衛反応だと言えます。そのため、発熱してすぐに解熱剤で無理やり体温を下げてしまうと、せっかくの防衛反応の妨げになってしまいます。熱の上り始めや寒気がする段階、微熱の場合は、解熱剤の使用は避け、しばらく様子をみましょう。もし、高熱が続き、眠れない、水分が取れない、症状が辛い時には、体力を消耗しないよう解熱剤を使用するようにします。ただし、解熱剤は一時的に熱を下げ、熱に伴う症状を和らげますが、病気自体を治してくれるわけではありません。例えば、発熱を引き起こす風邪は、ウイルスが原因であることがほとんどです。細菌が原因の場合には、抗菌薬(抗生物質)がありますが、ウイルスには効果がありません。ごく限られたウイルスには抗ウイルス薬が有効ですが、多くの場合はウイルスに対抗する薬はないのです。ウイルスを攻撃し、病気を治すのは、あくまでもその人が持っている免疫の力になります。

風邪で寝込む女性

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