時計遺伝子について
私たちの体を構成する遺伝子には、時計遺伝子という遺伝子が組み込まれています。
これが体内時計の元になっており、各細胞の活動をコントロールすることにより、さまざまな体のリズムが刻まれています。
夜になると眠くなり、朝になると自然に目が覚めるのは、時計遺伝子が作り出す体内時計に沿って体が動いているからなのです。
1972年哺乳類の体内で、日周リズムを刻む体内時計の中心がどこにあるかが発見されました。
それは、私たちの脳の中にある、視交叉上核という場所です。
1997年には、マウスを使った実験により、「時を刻む遺伝子」があることが発見されました。これが哺乳類で初めて発見された「時計遺伝子」です。その後、人間にも時計遺伝子があることが判りました。
時計遺伝子の種類
哺乳類で最初に発見された遺伝子は、「CLOCK(クロック)」と名付けられました。
その後、BMAL1,PER1,PER2,CRY1,CRY2という時計遺伝子がhっ件され、そして2014年には、最後の時計遺伝子が発見されており、この最後の時計遺伝子は、「Chrono(クロノ)」という名前が付けられました。
これらの基本となる時計遺伝子のほかに、関連する遺伝子を合わせると時計遺伝子は20種類以上あると考えられており、これらの時計遺伝子が私たちの体内時計をコントロールしています。
体のリズムの種類
私たちの中には様々な種類の体のリズムがあります。
体のリズムの種類について
下記の5種類のリズムが私たちの体の中で同時に働き、生活リズムを作っています。
年周リズム(季節リズム)
1年を周期としたリズムで季節リズムともいわれます。人間も春には眠気が強くなったり、秋から体重が増加したりします。渡り鳥が飛来したり、クマが冬眠したりするのも年周リズムに当てはまります。
月周リズム
約1か月を周期とするリズムです。女性の月経周期や女性ホルモンの分泌などに関係しています。
週周リズム
1週間(7日間)を周期とするリズムです。平日に出勤・通学し、土日は休日という人などには、1週間の中で活動量に変動があると言われています。
日周リズム(サーカディアンリズム)
地球の自転と同じ約1日を周期とするリズムです。人間の体温は朝目覚めてから上り始め、日中は高く、夜になると下がり眠くなります。これを動かすのが時計遺伝子です。
90分リズム(ウルトラディアンリズム)
約90分を周期とするリズムです。個人差はありますが、人間は寝ている時は浅い眠りと深い眠りを約90分周期で繰り返しています。人間の集中力の限界も約90分と言われています。
※週周リズムと90分リズムは人間特有のものであり、時計遺伝子の働きによるリズムではありません。
体内時計の仕組みについて
体内時計の仕組み
体内時計を支配しているのは、脳にある視交叉上核という部分です。
視交叉上核は、時計遺伝子が中心になって働く神経細胞が1万個以上も集まってできており、体内時計の司令塔となるので「親時計」とも言われています。それに対して、全身の細胞や臓器にある体内時計は「子時計」と言われています。
この親時計と子時計がうまく連動することで、血圧や体温、代謝生活などさまざまな体のリズムが形成されているのです。
視交叉上核はとても大切な場所で、親時計(主時計)と呼ばれています。それに対して、全身の細胞や臓器にある体内時計は、子時計(末梢時計)と呼ばれています。
体内時計はリセットが必要
地球の自転は24時間のリズムですが、体内時計が作り出す日周リズムは24時間よりも少し長いリズムであることが分かっています。つまり、毎日時刻合わせをしなければ、体内時計は地球のリズムからずれていってしまいます。そこで大切なのが、毎日のリセットです。
親時計(主時計)は朝の光でリセット
親時計の時刻合わせの役割を果たしているのが「朝の光」です。左右の目の網膜から伸びた視神経が朝に目から入る太陽光や人工光を感知し、親時計をリセットします。毎朝、光を浴びることで、親時計は新しいリズムを刻み始めるのです。そして、体が一日の活動に適した状態になるように司令を出します。
子時計(末梢時計)のリセットは朝食が大切
親時計が朝の光でリセットされた後は、子時計のリセットが必要です。
子時計(特に代謝に関わる臓器)のリセットには、食事の刺激が必要不可欠です。朝食をしっかり食べることで、全身の細胞や臓器にある子時計がリセットされ、新しいリズムを刻み始めます。そのため、朝食を抜いたり、起床してから朝食までの時間が長くなったりすると、親時計と子時計にズレが生じて、体内時計が乱れてしまいます。朝食は起床後1時間以内に取ることが大切です。また、体を動かすことでも、特に筋肉や肺などの子時計が活性化されます。毎朝同じ時間に起きて朝食を作る、洗顔や歯磨きをするといった動作が刺激となり、子時計の調整に役立ちます。
心身の不調は生活リズムの乱れから
人間は朝に目覚め、日中は活発に活動をし、夜に休息するという1日のリズムがあります。
例えば、私たちの体には、明け方から徐々に体温と血圧を上昇させ、朝スムーズに起床することができるように働くリズムがあります。このリズムは、親時計から司令を受けた子時計が1日の中で体温や血圧、自律神経、ホルモン分泌、代謝活動などを変化させ、調節することで作られている人間本来の「体のリズム」です。
一方で、私たちには、起床、食事、排泄、運動、学習、労働、入浴、就寝などを24時間の流れの中で行う「生活リズム」があります。この体のリズムと生活リズムが一致していると、心身ともに健康であると言われています。
しかし、現代社会は24時間休みなく活動を続け、夜間でもコンビニなどで人工的な強い光を浴びたり、パソコンやスマートフォンの明るい画面を見たりするなど、私たちを取り巻く光環境が変化しています。また、それに伴いライフスタイルも夜型化し、睡眠時間が減少するなど、生活自体も大きく変化しています。そこで、問題となっているのが体内時計と生活リズムのズレです。
体内時計は環境に合わせて、主に光と食事、運動などによって調整されることが分かっています。朝の光で親時計がリセットされ、朝食や運動によって子時計が活性化されると、正しいリズムで体は活動し始めます。しかし、夜更かしをしてうっかり朝寝坊し、朝食を抜いてしまうと、体内時計がみだれてしまいます。一度乱れた体内時計をもとの状態に戻すには約1日かかるため、リズムが乱れた状態が2~3日も続くと、疲れやすい、眠気で日中の活動に支障をきたすなどの心身の不調が起こってきます。さらに不規則な生活のリズムが慢性化すると、ホルモンや血圧、自律神経など体のさまざまな機能のリズムが乱れて、糖尿病や高血圧、肥満、がんなどの病気を引き起こすのです。
このように、生活リズムの乱れは体内時計の働きに影響を与え、体のリズムが乱れることで、さまざまな心身の不調や病気を引き起こす原因になっています。
社会的時差ボケ(ソーシャルジェットラグ)
海外旅行に行くと起こる「時差ボケ」ですが、実は日常生活の中でも「時差ボケ」になっていることをご存じでしょうか。
例えば、平日は同じ時刻に起きる人が、休日に夜更かしをして、いつもより朝寝坊をしたとします。すると、休日の夜更かしによって夜間に光を浴びて体内時計が遅れ、次の日の朝寝坊で朝の光を浴びられず体内時計を前進させることが出来ません。その結果、実社会から遅れた体内時計になってしまいます。つまり、これが時差ボケになっている状態です。このように、仕事や学校、家事などの社会的制約や社会のスケジュールによって起床時間が決まっている平日と、それらがなくなって夜更かしと朝寝坊をした休日の差によって引き起こされる体内時計のずれを「社会的時差ボケ(ソーシャルジェットラグ)と呼んでいます。
社会的時差ボケになると
社会的時差ボケによる体内時計の遅れで、休み明けの朝起きるのが辛い、日中に眠くなる、集中力が低下する、疲れやすいなど様々な体調不良が引き起こされます。そして、社会的時差ボケの程度が大きいほど学業成績が悪く、慢性化すると肥満や糖尿病、脂質異常症、うつ病などのリスクが高まるという研究結果もあります。特に、夜型の人は朝型の人に比べて社会的時差ボケが大きい人が多いため、極端な夜型にならないようにしましょう。
社会的時差ボケを防ぐためには
社会的時差ボケを防ぐには、平日と休日の起床時刻を一定にするよう意識することが大切です。
既に時差ボケになっているという人は、休日の起床時刻と平日の起床時刻のずれは2時間以内に留め、昼間は太陽の光を浴びて活動的に過ごし、夜はいつもより少し早めに眠るように心掛けましょう。
病気になりやすい時間帯
病名 | 発症しやすい時間帯 | メカニズム |
がん | 夜 | 一般の細胞もがん細胞も、深部体温が下がる夜になると発症し、増殖します。昼間はDNAにダメージを与えやすい活性酸素や紫外線が豊富なので、これを避けるためです。 |
急性心筋梗塞 | 朝8時~12時ころ、 午前10時ころがピーク | 血圧は朝目覚めた時に急激に上昇するため、心筋梗塞は午前中に発症しやすくなります。血液が明け方に固まりやすいことも関係していると考えられます。 |
脳卒中 | 朝4~12時頃 | 血液は明け方に固まりやすく、固まった血液を溶かす働きも低下しているため、午前中に起こりやすくなります。 |
胃潰瘍 | 夜 | 胃酸の分泌は夜に多く、朝が少ない傾向にあります。そのため、胃酸分泌が多い夜は、胃がただれやすくなっています。 |
アレルギー性疾患 | 夜間から明け方 | ぜんそくは、気管支粘膜が明け方に過度に反応して、喘息からの分泌物が過剰になることが影響しています。 アレルギー性鼻炎も午前中の早い時間に症状が出やすい。 アトピー性皮膚炎は午前と比べて夜間は皮膚が赤く腫れやすい傾向にあります。 |
リウマチ | 朝 | 就寝中に炎症を引き起こす物質が間接に溜まり、朝起きると体や関節周囲が動かしにくくなる「朝のこわばりという症状が強く現れます。 |
今、体内時計を利用して効果的な治療を行う、「時間治療」が大変注目されています。
体内時計と時間治療
体内時計を利用した「時間治療」
体内時計を利用して効果的な治療をしようという「時間治療」の試みが行われています。これは、薬の効果を高めるために、体のリズムに合わせて1日の中で最も適切な薬の投与時間を設定するものです。この時間治療によって、薬に対する反応、吸収、副作用の具合などが変わることが分かってきました。
例えば、ある種の抗がん剤は、就寝中(夜中の時間帯)に投与すると、吐き気や抜け毛などの副作用が劇的に減り、かつ効果も大きいという研究結果が出ています。また、インフルエンザワクチンは、朝に接種すると昼間に接種するより抗体値が上がるという研究結果もあり、将来的に予防接種を受ける時間にも影響を与える可能性があります。ほかにも、高血圧や不整脈、狭心症の治療などで研究が進められています。
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